一場 病院の待合室 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 7
二場 病院の診察室 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 12
三場 路地裏 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 22
四場 ネットカフェ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 28
五場 路地裏 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 40
六場 迷走部屋 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 46
七場 路地裏 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 56
八場 病院の診察室 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 62
九場 ネットカフェの個室 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 66
十場 教室 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 68
十一場 海底 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 76
十二場 巣 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 82
十三場 路地裏 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 88
十四場 病院の診察室 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 94
十五場 病室 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 96
病院の待合室で男Aはイヤホンをして椅子に座っている。静かに雨音が聞こえる。
「翼をください」冒頭の十秒ほどが流れるが、雨音もそれに比例して大きくなり、ラジオが聞き取りにくくなる。
男Aがイヤホンを取ると雨音は消え、「0番でお待ちの方ー。0番でお待ちの方ー。」と言うアナウンス音が聞こえる。男Aが受付の方を見る。背後には医者がいる。
医者はじっと男Aを見ている。
男Aは椅子の方へキャリーケースをひきずりながら歩いて行く。途中、イヤホンを耳につける。雨音が静かに聞こえてくる。
黒と呼ばれる女性が男Aの横の壁から手を突き出し、男Aのこめかみに指を当て
る。驚いた男Aが顔をあげると、黒は壁を突き破って出てきた。
男Aは思わず右を向く。
破れた壁の奥には病室があった。男Aは訝しく思いながらその中に入る。その部屋は簡素だった。部屋の真ん中にはベッドが横たわっており、その上には白い布を被された「もの」があった。ベッドの傍らには白いキャリーケースがある。男Aはしばし煩悶した後、じっと「それ」を見つめる。時間が止まったのかと思うほど経ったあと、男Aは突然動き出し、キャリーケースを開け、「それ」のある
台に近づき、手をかける。突然飛行機のエンジン音が鳴る。医者は破れた壁を覆うように病室のカーテンを閉める。
病室のカーテンには男Aがキャリーケースに「それ」を詰める影が見える。カーテンは風を受けて揺れている。エンジン音が雨音にかき消されていく。雨音は徐々に消えていく。
診察室には向かい合うように椅子が二脚と机がある。
キャリーケースを引きずる男Aは診察室に入ると椅子に座る。ひどく疲れているようだ。医者は問診票を見ている。
雨音が聞こえてくる。
医者はポケットから別の聴診器を取り出し落とした聴診器にそっと当てる。
医者が男Aの胸に聴診器を当てると壁を叩くペースの違う音が二つした。
片方の壁を叩く音のペースが上がる。
舞台面全面が赤く染まり、二つの壁を叩く音は雨の音にかき消されていく。
後方スクリーンにはあおりの視点で一人暮らしの古い畳部屋が映し出される。家具はあまりないが、ゴミで少し散らかっている。机にはパソコンと何かが入ったビニール袋が置かれている。椅子には赤いレインコートがかけられている。女性が映し出される。女性のそばには白いキャリーケースが置かれている。女性は雨の降る外を格子付きの窓越しに見つめて正座している。
映像は消え、照明も元に戻る。雨音は静かに聞こえる。
雨音が消える。
いかにも路地裏な雰囲気漂うエリアに机が一つと椅子が二つある。椅子には占い師が座っている。雨の音は聞こえない。
キャリーケースを引きずる男A、登場。
男Aは席に座る。
占い師は胸に手を当てるように男Aに促す。
男Aはキャリーケースを見つめ、胸に手を当てた。舞台面全面が赤く染まる。後方スクリーンにはあおりの視点で一人暮らしの古い畳部屋が映し出される。家具はあまりないが、ゴミで少し散らかっている。机にはパソコン。そして何かが入ったビニール袋が置かれている。椅子には赤いレインコートがかけられている。女性が映し出される。女性のそばにはキャリーケースが置かれている。女性は雨の降る外を格子のついた窓越しに見つめて正座している。雨の音が聞こえる。
映像は消え、照明も元に戻る。雨音も消える。
男Aと黒はネットカフェの個室にいる。傍らにはキャリーケース。インターネットの検索画面が後方のスクリーンに投影されている。「心臓二つ。」「追いかけられる。子供」。
男Aはネットカフェの個室から出て、そのまま立ち去る。黒も付いて行き立ち去る。
個室の外にはネットカフェの共有スペースがある。男Aと黒が個室から出て行った後、少女が周りを気にしながら同じ男Aのいたのと同じ個室から出てくる。そんな少女を男Bが見つけ、声をかける。
男A、登場。
男Bは箱を持ってくる。箱の中にはアフロと星形のメガネが入っており、男Bはアフロをかぶる。
客席にだけ中身が見える箱が出てくる。中にはリンゴが入っている。
男Aはやられたという表情をして後ろに下がる。
少女は大きく頷き、男Bはキャリーケースを個室から引っ張り出してくる。
男Bは目を閉じ、非常にゆっくりで不思議な動きをする。
男Bには神々しい光が当てられる。
少女は男Aから離れようとし、男Bはそれを助ける。
男Bは尻ポケットからもう一枚百円玉を取り出し男Aに渡す。男Aはそれを受け取り尻ポケットに入れる。
男Bはキャリーケースを開けた。しかし入っているのはカビて異臭のする饅頭である。男Bへの神々しい照明が消える。
少女は落胆して去る。男Aはその場から動けない。
路地裏の椅子には占い師が座っている。
少女、登場。
男A、登場。ネットカフェで蹴られた位置で先ほどと同じようにうずくまる。雨音が聞こえる。
男Aはついて行こうとするがグニャグニャを踏んでこける。
男Aが頭をあげると黒がいる。黒は携帯電話を男Aに渡す。男Aは電話をする。電話が終わるとコンビニ店員の格好をした男Bが饅頭の入ったビニール袋を持って登場する。
両者、去る。
雨音は消える。
少女と占い師は部屋の入り口にいる。入り口には迷走部屋と書かれている。
占い師が迷走部屋の扉を開ける。
迷走部屋は一人暮らしの古い畳部屋で、家具はあまりないが、ゴミで少し散らかっている。机にはパソコンと何かが入ったビニール袋が置かれている。椅子には赤いレインコートがかけられている。壁には様々な言葉が書かれた紙が一面に貼られていた。
少女、部屋の中に座る。
ゆっくりと照明が落ちていくと、声がする。迷走部屋の壁の張り紙の言葉(迷走部屋の声)が静かに聞こえ、程なくして聞こえなくなる。照明がつく。
ほぼ正方形のエリアに横になった直方体と大きめの棚が置かれている。
男Bはマスクをしてコンビニ店員の服を着て近くに立っている。
二人はしばし作業をする。
少女、うつむいている。
客として男A、黒が来店する。男Aはキャリーケースを持っている。
男Aは店内をうろうろし饅頭を持ってレジに来る。
男Aは無言で百円を払う。お釣りは募金箱に入れて退店。募金箱には「素晴らしい未来へ」と書いてある。買った饅頭の袋を忘れる。
少女は足元に何かあるのを感じ、レジ下を覗く。下にはダンボール箱が二つ置いてある。
少女は怪しみながら箱を開ける。
電話が鳴る。
黒は少女に受話器を取るように身振りで示し、少女は促されるまま受話器を取る。男Aの声で「君は誰だ」と聞こえる。
男B、登場。
両者、迷走部屋を出る。
占い師と少女は路地裏に移動する。少女は電話を携えている。
少女は早速耳に当てて聞いてみる。
占い師は持っていた大きなフードのついた赤い上着を少女に渡す。
占い師、立ち去る。
キャリーケースを持って男A、登場。
両者、キャリーケースを見る。
男A、立ち去る。
電話が鳴る。少女は立ち止まり恐る恐る受話器を取る。雨音が静かに聞こえてくる。
赤、立ち去る。
診察室では医者と男Aが向かい合って座っている。男Aはキャリーケースを携えている。
雨の音が静かに聞こえてくる。
壁を叩く音が一つだけ聞こえる。
男A、立ち去る。 雨音が消える。
個室には男Aと黒がいる。傍らにはキャリーケースが置かれている。
男Aが胸に手を当てていると隣から壁をドンドンと叩かれた。
男Aが部屋から出ると目の前には男性用の小便器が置かれていた。
生徒Aが隣から出てくるが、男Aのことは見えていないようだ。
そこはいつものネカフェではなく教室であった。ドアがある他に黒板の前には教卓がある。教師が一人、その前には机と椅子が三組あり、生徒が二人座っている。ビデオで配信しているのだろうか、空席の椅子にはビデオが置いてある。
男A、ドアを開けて教室に入る。
一同、男Aを見る。
鯨が跳ぶ劇中映像が舞台面全体に映し出される。
迷走部屋の声が聞こえてくると突然少女が教室に入って来る。男Aは少女に気づいてうろたえる。少女は言葉を発するが声にならず、男にゆっくり近づく。
暗転。
広いエリアに椅子が一つ置かれており椅子にだけ明かりが当たっていて周りは暗い。音楽(Mr.ChildrenのDive)が流れる間椅子の周りの暗いエリアを男Aが歩き回っている。曲が終わるとキャリーケースを持った赤がゆっくり登場し、椅子に座る。男Aはなおも椅子の周りを回っている。あのラジオが聞こえてくる。
翼をください(ピアノ)が流れる。その間、エリアの端にはキラキラした紙のようなものが一筋落ちている。赤は椅子から立って周囲の暗いエリアに移動しキャリーケースを引きずりながら椅子の周りを回る。男Aは椅子に座ってその光の筋を見ている。
赤は椅子の周囲をキャリーケースを引きずりながらゆっくり回っている。
黒が登場し、椅子に座る男Aの側に来る。
黒は饅頭を男Aに差し出す。
赤、男Aの目の前に来る。
男Aは饅頭を握りながらしばし悩み、少しして饅頭を乱雑にポケットにしまう。
生徒Aは男Bのしていたアフロを被り、椅子の周囲の暗いエリアで饅頭を大切そうに持っている。
男A、立ち去る。
黒、男Aを追いかけて立ち去る。
壁を叩く音と迷走部屋の貼り紙の言葉が大きく聞こえる。
暗転。
先ほどと同じエリアだが舞台中央には椅子に加えて机があり、机にはノートパソコンと饅頭の入ったビニール袋が置いてある。赤は起き、ゆっくり椅子に座る。後方のスクリーンには、zoomでの授業風景が投影されている。画面には教師と生徒A、生徒B。教室のエリアには教師が出て来る。
暗転。
赤、立ち上がってパソコンの画面から赤い糸を引き出していく。
黒が登場すると赤は饅頭を黒に渡す、赤はそのまま立ち去る。
黒、立ち去る。
映像は消え、暗転する。音声だけが聞こえる。
少女、迷走部屋の中に登場。
少女、「翼をください」を静かに歌う(アカペラ)。
少女の後ろでは紙が落ちている。
暗転。
路地裏の椅子には占い師が座っている。迷走部屋には少女がいるが照明は当たっていない。
キャリーケースを持った男A、登場。
男Aは鏡を覗き込見ながら舞台上をうろつく。
鏡には迷走部屋に座る少女が映り、鏡に反射した光が少女に当たる。
光が当たっていることに気づいた少女は迷走部屋の壁をドンドンと叩くそぶりをする。
男A、胸に手を当てる。
少女は迷走部屋の壁を叩いてドンドンと音を出す。
男A、立ち去る。
病院の診察室だが中央のエリアで行う。男Aと医者が向かい合って座っている。キャリーケースが傍らにある。雨音が静かに聞こえる。
男Aがキャリーケースを携えて診察室を出るとカーテンのかかった病室があった。途中黒とすれ違うがお互い気づかない。
男Aが「少女をキャリーケースにつめた」病室には白い布が被されたものが置かれている。
カーテンをくぐって部屋に入ると雨音と迷走部屋の声が大きくなる。
白い布の下には飛行機がある。
少女の待機する迷走部屋に照明が当たる。
男Aはポケットから饅頭を出し、ゆっくり食べる。音がやみ、それと同時に音楽がかかる。少女が翼をくださいを歌う。歌う間、キラキラした紙が舞台面全体に降る。歌に気づいた男Aは少女に駆け寄る。
飛行機のエンジン音が鳴り響く。
男Aはキャリーケースを投げ出す。
両者、飛行機に乗り込みそのまま退場する。